「おかえり」と言える日が、少しずつ減っていきます

こんばんは。
開心果 放送局です。
ここでは、誰かの日常にあった小さな出来事や、うまく言葉にできなかった気持ちを紹介しながら、その時に聴いてほしい一曲をお送りします。
今日は、子どもを送り出す日が近づいている、ある人のお話です。
来年の春、子どもが家を出ます。
就職先が決まって、春から一人暮らしをすることになりました。
本人が希望していた仕事だったので、決まった時は本当に嬉しかったんです。
「よかったね」って何回も言いました。
だから、家を出ることに反対しているわけでもないし、行ってほしくないわけでもありません。
でも最近、前より少し寂しく感じることが増えました。
たとえば、
「今日、ご飯いらない」
ってLINEが来る日が増えました。
友達と食べてくるとか、帰りが遅くなるとか。
前は夕飯を家で食べるのが普通だったので、最初は「あ、そうなんだ」くらいだったんですけど、最近は、こういう日がこれからもっと増えていくんだろうなって思います。
帰りが遅い日は、玄関の鍵が開く音がすると「あ、帰ってきたな」って思います。
向こうが、
「ただいま」
って言うので、私も普通に、
「おかえり」
って返します。
イヤホンをしたまま、そのまま部屋に行ってしまうことも多いです。
前はそんなこと、何とも思わなかったんですけど、最近は、この「おかえり」もあと何回言えるんだろうって考える時があります。
そう考えると、お弁当ももう作っていないし、駅まで送ることもなくなりました。
いつからだったか、あまり覚えていません。
小さい頃は何でもこっちがやっていたのに、もう私がしてあげられることって、そんなにないんだなと思います。
もちろん、今でも喧嘩はします。
帰る時間が遅いとか、返事が適当だとか。
私も腹が立って、
「もう知らない」
って言ったことがあります。
でも、本当に知らないことが増えてくると、ちょっと寂しいんですよね。
最近は友達と何をしていたかも全部話すわけじゃないですし、写真もいちいち見せてくれません。
別に隠しているわけじゃなくて、それが普通なんだと思います。
最近、一人暮らしの部屋をスマホで見ていることがあります。
「この辺、家賃高いな」
とか言っていて。
私も横から、
「駅から近い方がいいんじゃない?」
なんて言うんですけど、そういう話をしていると、あ、本当に家を出るんだなって急に実感します。
本人には、「寂しい」とはあまり言いたくありません。
せっかく新しい生活を楽しみにしているのに、こっちの寂しさまで持っていかせたくないので。
だから、
「楽しみだね」
って言っています。
それは本当です。
本当に嬉しいし、ちゃんと新しい生活を楽しんでほしいです。
でも、やっぱり寂しいです。
自分でも、嬉しいのか寂しいのか、どっちなんだろうって思う時があります。
たぶん、どっちもなんですよね。
寂しいけど、ちゃんと行っておいで、と思っています。
……嬉しいのに、寂しい。
今日の物語は、そんな言葉で終わっていました。
この人のところに届く、
「今日、ご飯いらない」
というLINEも。
イヤホン越しの、
「ただいま」
も。
少しそっけなく見えるけれど、それも、その子の生活が少しずつ広がっているからなんでしょうね。
「ご飯いらない」と連絡してくれるのも、帰る場所がここだと思っているから。
「ただいま」と言って、そのまま部屋に行けるのも、そこが安心して帰れる場所だから。
誰かが自分とは別の生活へ進んでいく時って、ひとつの気持ちだけでは、いられないものですよね。
就職が決まったことは嬉しい。
新しい場所で、自分の生活を始めてほしい。
でも、今まで毎日あったものがなくなっていくのは、やっぱり寂しい。
その二つは、どちらかを消さなくてもいいと思います。
大切な人の幸せは、ずっと自分のそばにいてくれることだけではありません。
自分で選んだ場所へ行って、そこで新しい人と出会って、笑っている。
少し寂しくても、そんな毎日であってほしい。
そう願うことも、大切に思う気持ちのひとつなんだと思います。
そんな、誰かのこれからを願っているあなたに、今日お送りしたい一曲があります。
カイの「あなた」。
この曲には、大切な人が自分のそばにいない時も、知らない未来を歩いている時も、どうか幸せでいてほしい、という願いがあります。
そして、いつか自分ではない誰かが、その人の隣で一緒に笑っていることまで願う。
少し寂しくても、その人が幸せなら、それが嬉しい。
そんな静かな愛情を歌った曲です。
今夜も玄関の鍵が開いたら、いつものように、
「おかえり」
と言うのでしょう。
その一言が言える今日を、少しだけ大事に思えるのかもしれません。
それでは。
カイで、
「あなた」。
次回も、誰かの小さな物語と、その日に聴いてほしい一曲をお送りします。
おやすみなさい。
開心果 放送局でした。
※「開心果 放送局」に登場する物語は、日常の中にあるさまざまな感情や出来事をもとに構成したフィクションです。
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